食品工場と半導体のクリーン度〜クリーンルームの等級と衛生管理5Sの基本〜
ものづくりの現場では、「清潔な環境」という言葉がよく使われます。食品工場と半導体工場も、どちらもこの言葉を使う現場です。ところが、同じ「清潔」でも、その中身を比べてみると両者には驚くほど違いがあります。食品工場では微生物や異物の混入を防ぐことが目的で、半導体工場では目に見えないほど小さな粒子が一つあるだけで、製品が不良になってしまいます。
とはいえ、二つの現場には共通する部分があります。それは、何を、どのレベルで、どう管理するのかをはっきりさせるという考え方です。この発想が、クリーンルームの等級と衛生管理の5Sという形で体系化されています。本記事では、クリーンルームの等級の考え方と、衛生管理に活きる5Sの実践的な視点を解説します。
目次
「清潔」の基準は業界によって違う
まずは、食品工場と半導体工場を比べながら、「清潔」とは何を指すのかを整理してみましょう。それぞれの現場が何を汚れとみなし、どこまで取り除こうとするのか。この違いを知ることが、クリーン管理を理解する出発点になります。
食品工場が管理するもの、半導体工場が管理するもの
食品工場で主に管理されるのは、微生物やアレルゲン、そして毛髪や金属片といった異物です。これらが製品に混入すれば、消費者の健康や安全に直結します。だからこそ、菌を増やさない温度管理や、異物を持ち込ませない仕組みが重視されます。作業者の服装や手洗いの徹底も、こうした管理の一環です。
一方、半導体工場で管理の対象になるのは、目に見えないほど微細な粒子や静電気、化学的な汚染です。粒径が0.1マイクロメートルにも満たない粒子が一つ付着しただけで、回路が不良になることがあります。このように管理する対象が違えば、必要な設備も手順も基準も変わるのです。同じ「清潔」でも、目指すゴールが異なります。
「見えない汚染」をどう数値化するか
クリーンな環境を保つには、清潔さを感覚でとらえているだけでは管理できません。「きれいになった気がする」という主観では、管理の水準を保てないからです。そこで必要になるのが、清浄度を数値で表す仕組みです。
空気中にどれくらいの粒子が浮かんでいるかを基準として、クリーンルームの清浄度は国際規格によって等級が定められています。数値で管理することによって、今の状態が目標に達しているか、改善が進んでいるかを客観的に判断できます。見えない汚染を見える数字に置き換えることが、クリーン管理の土台になります。
クリーンルームの等級の仕組みを理解する
クリーンルームの等級は、清浄度を示す共通のものさしです。この等級があるからこそ、異なる業界や企業の間でも、清浄度のレベルを同じ基準で語れます。ここでは、その仕組みを整理していきましょう。
ISOクラスとは何か
クリーンルームの清浄度は、国際規格であるISO 14644-1に基づいて分類されています。ISOクラス1からクラス9まであり、数字が小さいほど清浄度が高くなります。具体的には、空気1立方メートルあたりに含まれる粒子の数で等級が決まります。
業界によって、求められるクラスは大きく異なります。半導体の製造現場では、極めて高い清浄度が必要なため、クラス1からクラス3といった厳しい水準が求められます。これに対して、食品や医薬品の分野では、クラス5からクラス8あたりが使われることが一般的です。製品に許される汚染のレベルが、そのまま必要な等級に反映されています。
等級を維持するための設備と運用
クリーンルームの等級は、優れた設備を導入するだけでは保てません。空気をきれいに保つHEPAフィルターや、外から汚れた空気が入り込まないようにする陽圧管理、効率よく粒子を排出する気流の設計などが、清浄度を支えています。
しかし、設備が整っていても、運用がともなわなければ等級は維持できません。入室時の手順を守ること、作業者が無駄な動きをしないこと、そしてパーティクルカウンターで定期的に粒子数を測ることが欠かせません。設備と運用の両輪がそろって初めて、目標とする清浄度が保たれます。
衛生管理に活きる5Sの考え方
クリーンな環境を支えるのは、設備だけではありません。そこで働く人の日々の行動が、清浄度を大きく左右します。その行動の指針となるのが、製造現場で広く使われている5Sです。ここでは、5Sが衛生管理にどう役立つのかを見ていきます。
整理・整頓・清掃が「汚染源」を断つ
5Sは、整理、整頓、清掃、清潔、躾という五つの言葉の頭文字をとったものです。このうち最初の三つは、具体的な行動を表しています。不要なものを置かない整理、決まった場所に戻す整頓、こまめに掃除する清掃です。
これらの行動は、汚染の発生源を減らす直接的な対策になります。不要なものが散らかっていれば、そこにほこりや菌がたまります。掃除を怠れば、異物や粒子が増えていきます。つまり、清潔な環境は設備だけでは保てず、日々の地道な行動に支えられているわけです。整理・整頓・清掃の行動が、汚染源を減らす土台になります。
清潔と躾が「仕組み」を持続させる
5Sの後半にあたる清潔と躾は、改善を一時的なもので終わらせないための工夫です。ここまでの整理・整頓・清掃が「行動」だとすれば、清潔は、その行動によって整えた状態を保ち続けることを指します。掃除をするのが清掃、きれいな状態が保たれているのが清潔という違いです。
そして躾は、決められたルールを全員が自然に守れるようにすることです。手順を標準化し、守られているかを定期的に確認します。この仕組みがあるからこそ、クリーンルームの等級は長期にわたって維持されます。5Sの後半二つは、清潔な環境を持続させる仕組みづくりだと考えられます。
クリーン管理の発想が活きる現場
クリーン度を管理する考え方は、半導体や食品の分野にとどまりません。微細な汚染が品質を左右する現場であれば、業界を問わず同じ発想が求められます。ここでは、その代表的な分野を取り上げます。
医薬品・医療機器製造におけるGMP対応
医薬品の製造では、GMPと呼ばれる製造管理の基準への対応が法律で求められています。GMPは、製品の安全と品質を一定に保つために定められたものです。このなかでも、製造環境のクリーン管理は特に重要な項目です。
クリーンルームの等級を適切に管理し、5Sの考え方で日々の環境を維持する。こうした取り組みは、そのままGMPへの対応の実務につながります。医薬品の分野では、清浄度の管理が製品の信頼性を支える土台になっています。
精密計測・航空部品製造での異物管理
精密なセンサや航空部品の製造でも、微小な異物が大きな問題になります。わずかなほこりや粒子が、測定の誤差や機能の不具合を引き起こすことがあるためです。こうした現場では、異物の混入を防ぐ管理が欠かせません。
そのために、工程ごとにどこで異物が入り込むリスクがあるかを評価し、必要なクリーン度の基準を設けます。たとえば、特に精度が求められる組み立て工程だけ清浄度を高め、それ以外の工程は基準を緩めるといった使い分けも行われます。半導体や食品で培われたクリーン管理の発想が、精密分野の品質を支える場面は少なくありません。求められる精度が高いほど、環境の管理が製品の質を大きく左右します。
まとめ:クリーン管理は「基準を決めて、仕組みで守る」
クリーンルームの等級は、目指すべき清浄度の水準を示すものさしです。しかし、その水準を実際に保つのは、優れた設備と、そこで働く人の行動の両方です。どちらか一方が欠けても、清潔な環境は維持できません。
そして、人の行動を支える普遍的な枠組みが5Sです。整理から躾までの五つの考え方は、業種を問わず、清潔な環境を保つための基盤になります。クリーン管理の本質は、達成すべき基準を決め、それを仕組みで守り続けることにあると考えられます。食品工場と半導体工場という異なる現場が、同じ発想にたどり着くのは、そのためです。
東京航空計器は、半導体工場で活躍する検査・測定装置や搬送装置も手がけ、精密なものづくりに取り組んでいます。高い清浄度が求められる現場を支える製品づくりについて、お気軽にご相談ください。


